2011年3月27日。
ドバイ・メイダン競馬場でミルコ・デムーロ騎手騎乗のヴィクトワールピサが
日本馬として史上初のドバイワールドカップを制覇した。
しかも2着は同じ日本馬のトランセンド。
苦節14年。
数々の日本最強馬が挑戦し、あっけなくドバイの砂塵に消えていった苦労が、
日本調教馬のワンツー・フィニッシュという最高の結末で結ばれた。
勝利ジョッキーは震災で傷ついた日本の為に喪章をつけ、
日本人の為に熱心に祈りをささげてくれ、日本を勇気づけてくれた。
そして彼はインタビューをこう締めくくった。
「I love you, Japan.」と。
7年ぶりの天覧競馬、最後の直線、食い下がるフェノーメノを振り切り、
先頭でゴールを駆け抜けた瞬間、
ドバイのあの瞬間と重なるアツい気持ちがありました。
レースは内枠の利を活かして、シルポートが先行。
向正面で一気に加速、大逃げ策に打って出ます。
小牧騎手は初の天覧競馬で見せ場を作ろうと奮起したのではないでしょうか。
「せっかく府中まで脚を運んで下さった天皇・皇后にいいレースをご覧になって頂きたい」
そのアツい想いが無謀とも思える大逃げ策に出た大きな理由でしょう。
しかし、その小牧騎手のお陰でレースがかなり締まりました。
男ですね。本当に魅せてくれるジョッキーです。
番手にカレンブラックヒルが付け、
後ろのダイワファルコンが様子を見ながらそれをマーク。
残り400mを切ってもその差は大きく、
これは「小牧騎手が大仕事をやった」と思った瞬間、
道中ひたすら内側を走っていたエイシンフラッシュが最内を強襲します。
カレンブラックヒル、ダイワファルコンをあっという間に呑み込み、
力尽きたシルポートを一蹴し、先頭に躍り出ます。
同じタイミングで外にいたフェノーメノもやや遅れて動き始めますが、
時既に遅し。外側からカレンブラックヒル・ダイワファルコンを捕まえにいった為に、
内側にいたエイシンフラッシュに分があったかもしれません。
今や最強5歳世代の代表格・ルーラーシップも上がり33.1秒の鬼脚で迫りますが、
道中の位置取りがやや後だった事もあり、外を回らざるを得ませんでした。
この部分は同じ外国人騎手でも日本騎乗の豊富なデムーロ騎手とメンディザバル騎手の
日本での「経験の差」なのかもしれません。
シルポートの大逃げのせいもあるのかもしれませんが、
動き出しがやや遅かったようにも見えます。
しかし、これも結果論。
最も大きなストライドで遅いかかったルーラーシップは
次のレースでも期待できそうです。
そして大観衆が歓声を上げたのはエイシンフラッシュがウイニングランを終えた後、
誰もがミルコ・デムーロ騎手に視線を送ります。
ムチを振り、涙をぬぐい、観客に勝利をアピールする
ミルコ・デムーロ騎手は、日本中央競馬会競馬施行規程に違反し、
ヘルメットを手に取り、芝生の上に降り立ち、膝まづきます。
7年前の松永幹夫騎手の敬礼が日本人の魂の中に眠る武士道からくる礼節であれば、
デムーロ騎手の敬礼は、ローマ帝国の騎士道精神を体現したものでしょう。
しかも、ヘヴンリーロマンス・エイシンフラッシュともに、暴れることなく、
陛下の御前で非常に行儀よく、優駿としての役割を果たしていました。
ミルコ・デムーロ。
イタリア人でこれほどまでに日本のスポーツ界で愛されている人間は
サッカーのザッケローニ監督とデムーロ騎手以外にいないのではないでしょうか。
勝ったエイシンフラッシュはドイツからの持ち込み馬。
天覧競馬で、イタリア人騎手がドイツの流れを汲む馬で、
アメリカ(サンデーサイレンス)血統がズラリと並ぶ、出走馬を一蹴した姿は
70年前の雪辱を晴らしたようで、私が思わずニヤリとしてしまったのはここだけの話。
もしも、来年、日本から再び世界に挑戦する馬が現れた時には、
彼に乗ってもらいましょう。
震災で傷ついた日本の為に喪章をつけ、
日本人の為に熱心に祈りをささげてくれ、
日本を勇気づけ、天皇に膝まづくイタリア人・ミルコデムーロに。
そして彼にインタビューをこう締めくくってもらいましょう。
「I love you, Japan.」と。
おそらく、今日のレースで残念ながら馬券を外してしまった競馬ファンの中にも
「感動した」「良いモノが見れた」と、
イタリア人による本物の騎士道精神を前に馬券を外したことなんか
どうでもよくなった人も多いのではないでしょうか。
恥ずかしながら、私もその一人。
「天皇(エンペラー)を守るには立派な侍(ナイト)が必要」ということで
安易にナカヤマナイトから勝負してしまったのですから。
本物のナイトは、日本競馬に愛され、
日本を愛する一人のイタリア人だったのですから。
江戸川乱舞 今後の注目馬
・ジャガーメイル
骨折明けながら、上がり33.5秒の大激走。
次走も相手次第で。
・ナカヤマナイト
上がりは勝ち馬とルーラーシップに次ぐ33.5秒。
最内枠を活かせなかっただけ。